柿の木の剪定方法|実をつけるための適切な時期とやり方

こんにちは。町の植木屋で庭師をしている者です。秋が深まって、庭先の柿の木が橙色に色づき始めると、「ああ、今年もこの季節が来たんだな」って、なんだか心が温かくなりますよね。僕が子供の頃、祖父の家の庭にあった大きな柿の木。もぎたてを丸かじりした時の、あの口いっぱいに広がる甘さは、今でも忘れられません。

でも、庭に柿の木があるお宅から、こんな相談をよく受けるんです。「去年はあんなに沢山なったのに、今年は全然ダメで…」「木ばっかり大きくなって、全然実がならないんだけど、どうして?」。

その悩み、もしかしたら「剪定」で解決できるかもしれません。柿の木には、おいしい実をたくさんつけてもらうための、ちょっとしたご機嫌の取り方があるんです。

この記事では、僕が親方や、それこそ祖父から教わった、柿との上手な付き合い方…剪定の秘訣を、余すところなくお話ししようと思います。

そもそも、なぜ柿の木に剪定が必要なの?

「枝を切るなんて、もったいない」「自然のままが一番じゃないの?」その気持ち、すごくよく分かります。でも、おいしい柿を毎年コンスタントに楽しみたいなら、剪定は避けて通れない、むしろ柿への愛情表現なんです。放っておくと、柿の木はちょっとワガママを言いはじめるんですよ。

おいしい実を「毎年」収穫するため

「隔年結果(かくねんけっか)」って言葉、聞いたことありますか?豊作の年と、まったく実がならない不作の年を繰り返す現象のことです。これは、前の年に実をつけすぎて疲れ果てた木が、翌年は休んでしまうために起こります。

剪定で枝の数を調整し、実のなる量をコントロールしてあげることで、木の負担を減らし、「毎年、安定して」おいしい実をつけてもらうことができるんです。いわば、無理させないための健康管理ですね。

木を病害虫から守り、健康に保つため

剪定をしないと、枝はどんどん伸びて混み合っていきます。そうなると、内側の葉っぱまで太陽の光が届かなくなり、風通しも悪くなる。ジメジメして薄暗い場所…もう、病原菌や害虫たちにとっては最高のパーティー会場ですよ。

ヘタムシ(カキミガ)なんかの害虫被害も、枝が混み合っていると広がりやすい。剪定で風と光の通り道を作ってあげることは、柿の木を病気から守るための、何よりのワクチンなんです。

収穫や手入れをしやすくするため

柿の木って、放っておくとびっくりするくらい大きくなりますよね。僕がお手入れに伺うお宅でも、脚立を使ってもてっぺんの実に手が届かない、なんてことは日常茶飯事。

剪定で高さを抑えて、枝を手の届く範囲に配置してあげることで、収穫はもちろん、消毒などの普段のお手入れが、びっくりするくらい楽になります。安全に作業するためにも、これはすごく大事なこと。

柿の剪定、いつやるのが正解?【時期を間違えると実がならない】

やる気が出てきたところで、まず押さえておきたいのが剪定のタイミング。柿の木は、切る時期を間違えると、とたんに機嫌を損ねて実をつけてくれなくなります。ここは絶対に外せないポイントです。

本番は冬!落葉後の「休眠期剪定」(12月~2月)

柿の木の剪定に最も適した時期。それは、葉がすべて落ちて、木が眠りについている12月から2月の寒い時期です。なぜこの時期かというと、理由がちゃんとあります。

  • 枝が見やすい:葉っぱがないから、木の骨格や枝の混み具合が一目瞭然。「どの枝を切るべきか」がすごく判断しやすいんです。
  • 木へのダメージが少ない:休眠期なので、人間で言えば麻酔がかかっているような状態。この時期に切れば、木の体への負担が最小限で済みます。

来年の秋に、たわわに実った柿を収穫するための、いわば仕込みの作業。この冬の剪定が、一年間の柿の出来を決めると言っても過言ではありません。

夏(7月~8月)の剪定は、あくまで「補助」

「夏にも剪定するって聞いたけど?」はい、夏にも剪定をすることはあります。でも、これはあくまで補助的なもの。目的は、茂りすぎた葉を軽く間引いて、日当たりや風通しを改善すること。ひょろひょろと勢いよく伸びすぎた枝(徒長枝)を軽く切る程度に留めます。

夏の時期にバシバシと強く剪定してしまうと、木が弱ってしまうだけでなく、後述する大事な「花芽」を切り落としてしまう危険性が大!なので、夏の剪定は「ちょっと込み合ってるから、髪をすいてあげるね」くらいの、ごく軽い気持ちで行うのが鉄則です。

【最重要】これを読まなきゃ始まらない!柿の花芽の秘密

さて、ここからがこの記事の核心部分です。これを理解しているかどうかで、あなたの柿の木の運命が決まります。大げさじゃなくて、本当に。

柿の剪定で、絶対に覚えておかなければいけないルール。それは…
『柿は、前年に伸びた枝の先端付近に、実になる花芽をつける』ということです。

どういうことか分かりますか?
去年の春から夏にかけて、にょきにょきと伸びた新しい枝がありますよね。その枝の、先端から2~4個目くらいまでの芽が、翌年に花を咲かせ、実になるんです。つまりですよ?「伸びすぎたから」といって、去年の枝の先端を全部パチンパチンと切りそろえてしまったら…。

そう、その年は絶望的に実がなりません。悲劇です。この「もったいない切り方」をしてしまっているお庭、本当に多いんですよ…。僕が見て、何度「あぁっ!」と心の中で叫んだことか。

なので、柿の剪定は「どの枝に実がなるか」を見極め、その「実がなる枝(結果母枝)」を大事に残しつつ、不要な枝を取り除くという考え方が基本になります。先端の芽がふっくらしている、元気の良い枝。それが宝物の枝です。

【実践編】庭師が教える柿の木の剪定手順

お待たせしました。いよいよ実践です。最初は難しく感じるかもしれませんが、手順通りに進めれば大丈夫。さあ、ハサミを手に取ってみましょう!

1.まずは道具の準備から

剪定に必要なのは、剪定バサミと、少し太い枝を切るための剪定ノコギリ。そして安全のための脚立と手袋。太い枝を切った後の切り口に塗る「癒合剤」もあると、病原菌の侵入を防げるので万全です。

2.剪定の基本ステップ

  1. 木を眺めて、理想の姿をイメージする
    いきなり切り始めるのは禁物。まずは木から少し離れて、全体を眺めます。「3年後、この木はどんな形になっているだろう?」「どの枝が邪魔かな?」と、完成形を妄想する時間。これが一番大事。
  2. 要な枝を根元から取り除く(間引き剪定)
    まずは、明らかに不要な枝を根元から切り落とします。これだけでも、かなりスッキリするはず。下の表にあるような枝を見つけたら、ためらわずに切ってしまいましょう。
  3. 残す枝の先端を切り詰める(切り戻し剪定)
    次に、残すと決めた「実がなる枝(結果母枝)」の剪定です。枝の先端から、ふっくらした良い花芽を3~4個数えて、その少し先で切ります。こうすることで、残した芽に栄養が集中し、質の良い大きな実がなるんです。枝の先端まで芽を残しすぎると、実がつきすぎて小さくなったり、枝が折れたりする原因になります。
  4. 全体のバランスを整える
    最後に、もう一度木から離れて全体を確認。枝が均等に配置され、木の中心まで光が当たるような形になっていれば、剪定は完了です!お疲れ様でした!

こいつは切るべし!不要枝リスト

「不要な枝って言われても、どれのこと?」という方のために、代表的なものをまとめてみました。

不要枝の種類特徴なぜ切るの?
徒長枝(とちょうし)上に向かって勢いよく、まっすぐ伸びている太い枝栄養を独り占めする暴れん坊。実もつきにくい。
内向枝(ないこうし)幹の中心に向かって、内側に伸びている枝日当たりや風通しを悪くする元凶。
交差枝(こうさし)他の枝と交差したり、絡みついたりしている枝枝同士が擦れて傷になり、病気の原因になる。
枯れ枝・病気の枝明らかに枯れている、色が違う、病気の痕跡がある枝見た目が悪いだけでなく、病気の発生源になる。
下向きの枝下に向かってだらんと垂れ下がっている枝日当たりが悪く、良い実がなりにくい。

まとめ

どうでしょう、柿の木の剪定、少しは身近に感じてもらえたでしょうか。柿の剪定は、ただ枝を切る作業ではありません。柿の木の性質を理解して、「君が元気においしい実をつけるには、どうしたらいいかな?」と問いかけ、手助けしてあげるコミュニケーションです。

一番大事なのは、「前年に伸びた枝の先端に実がなる」という柿の木の秘密を、絶対に忘れないこと。これさえ分かっていれば、大きな失敗はしません。

最初は、どの枝を切ればいいか迷うと思います。でも、大丈夫。何年か続けているうちに、不思議と「この枝は来年良い実をつけそうだ」なんて、枝の顔つきが分かってくるものですよ。切った枝の分だけ、来年の秋、甘くて美味しい実があなたを待っています。

そう信じて、まずは一本、ハサミを入れてみませんか?その一歩が、きっと豊かな実りにつながるはずですから。

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